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遺言書の種類| 作成方法や費用、メリット・デメリットを種類別に解説

遺言書には種類があります。その種類に応じて作成方法は異なり、決められたルールに従って作成をしなければ無効になってしまいますので注意が必要です。そこで、この記事では遺言書の種類別に作成方法を解説します。
特に代表的な遺言書である「自筆証書遺言」「公正証書遺言」については、近年の法改正の影響や費用など、詳細も併せて紹介していきます。

遺言書の種類

遺言書の種類は、大別すると「普通方式遺言」と「特別方式遺言」の2つに分けられます。まずはこの2つの方式について説明していきます。

普通方式遺言

普通方式遺言は、下表にある3つの遺言のことを指します。後述する特別方式遺言とは異なり、遺言者がいつでも選択的に作成をすることができます。

 

普通方式遺言

自筆証書遺言

公正証書遺言

秘密証書遺言

遺言者が自書により作成する遺言書のこと。遺言者が1人だけで秘密裏に作成することができ、遺言内容や遺言書の存在もすべて秘密にすることができる。ただし1人で作成することにより不備が生じるリスクは高くなる。

公正証書として作成する遺言書のこと。公証役場にて、公証人に遺言内容を伝えて、書面を作成してもらう。また、証人も一緒に立ち会うことになる。費用や手間はかかるが、確実な遺言書作成ができる。

遺言者が作成、封印し、公証人役場に持ち込んで保管をしてもらう遺言書。公証人や証人が立ち会うが、遺言内容は誰にも知られないままにできる。

 特別方式遺言

特別方式遺言は、死の危険が迫っているなど、特別状況下であるため普通方式遺言による遺言書作成ができないときの遺言書のことです。

 

「危急時遺言」と「隔絶地遺言」の2種類に分けられ、さらに危急時遺言には「一般危急時遺言」と「難船危急時遺言」。隔絶地遺言には「一般隔絶地遺言」と「船舶隔絶地遺言」があります。

 

特別方式遺言

一般危急時遺言

難船危急時遺言

一般隔絶地遺言

船舶隔絶地遺言

死亡の危機が迫っている状況で利用できる遺言方式。

自書でも代理で書いてもらうのでも良いが、3人以上の証人が立ち会う必要がある。

飛行機や船に乗っている状況で死亡の危機が迫っているときに利用できる遺言方式。

自書でも代理で書いてもらうのでも良いが、2人以上の証人が立ち会う必要がある。

伝染病などが原因で隔離されている状況で利用できる遺言方式。

遺言者自身が作成する必要があり、その上で証人1人と警察官1人の立ち合いの下で作成をしなければならない。

長期の航海により陸地から離れた場所にいるときに利用できる遺言方式。

遺言者自身が作成する必要があり、その上で船長もしくは事務員と2人以上の証人の立ち会いが求められる。

 

なお、民法では原則として普通方式遺言で遺言書は作成されなければならないと規定されています。その上で、例外的に特別方式による遺言書作成を認めています(民法第967条)。

 

そこで、特別方式による遺言ができる場合でも、“遺言者が普通方式による遺言ができるようになってから6ヶ月間生存したとき”は、特別方式遺言は無効になるとも定められています(同法第983条)。

「自筆証書遺言」と「公正証書遺言」が代表的な遺言書

上に挙げたように遺言書にも色んな種類があります。とはいえ、特別方式で遺言書を作成する機会はほぼありません。
また、普通方式遺言の1種である秘密証書遺言も、公正証書遺言に近い性質を持ちつつも形式的な不備を防ぐことができないなどの問題があります。遺言書の存在まで秘密にすることはできませんし、あまり積極的には利用されていません。

 

そこで結局のところ、遺言書といえば「自筆証書遺言」と「公正証書遺言」の2つが代表的であるという実情があります。

 

公正証書遺言に関しては、毎年10万件前後作成されていることがわかっています。

出典:日本公証人連合会「令和5年の遺言公正証書の作成件数について」

 

これに対し自筆証書遺言は公証役場で作成をしないため正確な件数は把握できませんが、“検認の数”から予測を立てることはできます。検認は、作成された遺言書について、相続開始後家庭裁判所で開封して現状を保全するための手続です。自筆証書遺言の場合はこれを必ずしないといけません。
そして公表されている検認事件数については、毎年2万件弱であることがわかっています。

出典:裁判所「司法統計」

自筆証書遺言の詳細

自筆証書遺言はその名の通り自筆での書面作成が求められる遺言書です。具体的な作成方法、自筆証書遺言であることのメリット・デメリット、そして近年の法改正や新制度についても以下で説明します。

自筆証書遺言の作成方法

自筆証書遺言に限らず、そもそも遺言書は民法に則った方式で作成されなければ法的な効力は生じないということは覚えておきましょう。それぞれ紹介する方法に従わないと、遺言書の内容に納得できない人物が「その遺言書は無効だ」と主張したときに退けることができません。

 

それでは自筆証書遺言の作成方法についてですが、こちらは唯一単独での作成が認められている遺言書ですので、他の方法に比べて気軽に作成をすることができます。

 

ただし、“遺言の全文を自書すること”は必須です。
「パソコンやスマホを使ってテキストデータを残しておく」「プリントアウトして作成する」といったやり方は認められませんので要注意です。

 

さらに、遺言内容それ自体に限らず、日付と氏名に関しても自書が必要で、押印もしないといけません。

 

遺言書の内容は相続人などを拘束することになりますが、その効力が生じるのは遺言者本人が亡くなった後です。そのため遺言書の有効性につき争いが生じても、もはや本人に真意を問うことはできません。そこで厳格な方式を指定することで、財産処分行為への本人の認識を担保しているのです。

自筆証書遺言のメリット・デメリット

自筆証書遺言であることのメリットは、次の通りです。

 

  • 作成が簡単
  • 費用がかからない
  • 遺言内容と遺言書の存在を秘密にできる

 

一方で、次のようなデメリットがあります。

 

  • 不備により無効になるリスクが大きい
  • 作成後の紛失や改ざんなどのリスクがある
  • 作成した遺言書が見つからないまま相続されるおそれがある
  • 検認手続が必要

 

自分1人で費用もかけず作成できるのは大きなメリットですが、不備に気が付かないまま作成を進めて無効になってしまう可能性があるのは大きな問題です。

 

ただ、紛失・改ざん、未発見、検認といったデメリットに関しては、法務省で実施している保管制度(後述)を利用することで解決できます。

自筆証書遺言に関する近年の動向

自筆証書遺言に関する近年の動向としては、着目すべき2つの点があります。

 

1つは、「平成30年改正による財産目録の作成方式の緩和」です。
自筆証書遺言には、自身が所有する財産(のちの相続財産)を表示する「財産目録」を添付するのですが、かつてはこの財産目録に関しても自書であることが求められていました。

しかし法改正により次の規定が置かれ、財産目録の自書は必須ではなくなりました。

 

自筆証書にこれと一体のものとして相続財産(第九百九十七条第一項に規定する場合における同項に規定する権利を含む。)の全部又は一部の目録を添付する場合には、その目録については、自書することを要しない。この場合において、遺言者は、その目録の毎葉(自書によらない記載がその両面にある場合にあっては、その両面)に署名し、印を押さなければならない。

引用:e-Gov法令検索 民法第968条第2

 

財産目録には土地の地番や地積、その他記載すべき事項が多いため、すべての自書は大変な作業です。そこで遺言者の負担を軽減するため、法改正がなされました。
ただし、自書によらない財産目録の全ページに署名と押印は必要です。

 

着目すべきもう1点は、「自筆証書遺言保管制度の創設」です。
作成した自筆証書遺言を自宅で保管するとなれば、紛失等の問題が生じます。そこで諸問題を防ぐためにも、作成した自筆証書遺言を法務省で保管してもらえるという制度が運用されています。

 

同制度を利用するには、まず遺言書を作成し、遺言書の「保管申請」を行います。いきなり遺言書を持っていっても受け付けてもらえません。事前予約が必須です。
申請が通ると、原本が法務省に保管され、画像データとしても保存されます。相続が開始する前に、保管申請の撤回をすることも可能です。なお同制度により保管されている自筆証書遺言については、検認手続は不要になります。

 

同制度は、自筆証書遺言の問題点を解決する有効な手段といえます。
そのため毎月1,000件を超える保管申請がなされており、令和412月時点で、累計5万件近くもの申請実績を持っています。

出典:法務省「利用状況(令和412月)」

公正証書遺言の詳細

自筆証書遺言などの私人が作成した文書は「私文書」と呼ばれます。
これに対して、公務員が職務権限に基づいて作成する文書は「公文書」と呼ばれます。
公文書は、文書の成立に関する真正性(作成名義人の意思に基づいて作成されたこと)が認められやすく、文書としての証明力が高いという特徴を持ちます。

 

公正証書遺言も公証人の作成する公文書であり、遺言書としての性質に加え、公文書としての性質も併せ持つことになります。

公正証書遺言の作成方法

公正証書遺言を作成するには、遺言書の内容を検討し、その後公証役場のアポを取る必要があります。公証人や証人との日程調整も必要ですし、即日作成できるものではありません。

 

アポを取った後、公証人と連絡を取り合い、作成作業を進めていきます。
形式的な要件としては次の通りです。

 

  • 証人2人立ち合いがあること
  • 遺言の内容は公証人に口述すること
  • 公証人は口述された内容を筆記すること
  • 筆記された遺言内容を遺言者と証人に読み聞かせること(または閲覧させる)
  • 遺言者、証人、公証人が遺言書に署名と押印をすること
  • 公証人は、適式に作成されたことを示す旨付記すること

 

ただし、公正証書遺言に関しては、遺言者が自分で署名できなくても、公証人がそのことを付記することで署名に代えることが認められています。
口がきけない者も想定しており、口述に代える対応を取るなどの措置も認められています。

公正証書遺言のメリット・デメリット

公正証書遺言には次のメリットがあります。

 

  • 適式に遺言書が作成できる
  • 遺言書が存在していることを知らせることができる
  • 遺言者自身が保管する必要がない
  • 検認手続が不要

 

形式的不備のリスクが小さいため、安心感があります。有効・無効の争いが生じにくく、相続開始後の親族間のトラブルも防ぎやすくなります。

 

一方で次のようなデメリットもあります。

 

  • 費用がかかる
  • 作成手続に手間がかかる

 

公正証書遺言を作成する際には手間もかかりますし、「公正証書」へのなじみもないと思いますので、専門家に相談して進めることをおすすめします。

公正証書遺言の作成にかかる費用

公正証書遺言を作成するときの費用は、遺言書に記載する財産の価額に応じて変動します。
下表のように、相続財産となる財産が大きいほど、費用も大きくなってきます。

 

財産の価額

手数料

100万円以下

5,000

100万円超、200万円以下

7,000

200万円超、500万円以下

11,000

500万円超、1,000万円以下

17,000

1,000万円超、3,000万円以下

23,000

3,000万円超、5,000万円以下

29,000

5,000万円超、1億円以下

43,000

1億円超、3億円以下

43,000円+超過額5,000万円までごとに13,000円を加算

3億円超、10億円以下

95,000円+超過額5,000万円までごとに11,000円を加算

10億円超

249,000円+超過額5,000万円までごとに8,000円を加算

参照:e-Gov法令検索 公証人手数料令第9条別表

 

なお財産が1億円以下の場合、「遺言加算」として、表の手数料に11,000円が加算されます。

 

また、遺言書の原本は公証役場で保管されますが、正本と謄本については遺言者に交付する際、1枚あたり数百円程度の手数料が発生します。

 

その他、遺言者が公証役場に行くことができず公証人の出張を依頼する場合など、別途費用がかかるケースもある点には留意しましょう。

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  • 経歴

    平成10年  早稲田大学 法学部卒業

    平成12年  司法書士試験合格、三鷹市の司法書士事務所に勤務

    平成14年  司法書士登録

    平成16年  簡裁代理関係業務認定

    平成22年  いつき司法書士事務所開業

事務所概要

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