遺言書作成前に知っておきたい遺言執行の基礎知識
遺言書を作成するとき相続人への財産の分配方法に注目しがちですが、遺言書の内容を実現するためには「遺言執行」について理解しておくことが大事です。
これは遺言者の意思を実現する重要な手続きであり、遺言執行が適切に行われなければせっかく作成した遺言書も意味をなさなくなってしまいます。
そこで当記事では、遺言書を作成する前に知っておきたい遺言執行について、「遺言執行者」と併せて解説をしていきます。
遺言執行とは何か
遺言執行とは、遺言者が亡くなったあとに、「遺言書の内容を実現するために行われる一連の手続き」のことを指します。具体的には、遺産の調査や管理、相続人への財産の引き渡し、不動産の名義変更(登記の手続き)などが含まれます。
遺言書の作成段階で遺言執行にまで意識を向けることの重要性は、次の3つの観点から説明することができます。
- 遺言の確実な実現を目指すため
- 相続人間のトラブルを防止するため
- 手続きを円滑に進めて相続人の負担を減らすため
ただし、遺言執行は相続開始後、つまり遺言者が亡くなったあとの話です。本人が関与することができないため、遺言者ができる対策は「遺言執行者の指定」となります。
遺言執行者の役割
トラブル防止やスムーズな遺言実現に向けて、遺言者は「遺言執行者」と呼ばれる人物を定めることができます。
遺言執行者は主に以下の役割を担う人物を指し、法律上その権利・義務が認められている存在でもあります。
- 相続開始後の遺産の調査や管理
- 財産目録の作成と相続人に対する交付
- 財産の引き渡し等による遺言内容の実行
- 相続人への職務遂行に関する報告 など
単なる事務手続きにとどまらず、遺言執行者には遺言者の意図を汲んで、公平かつ中立的な立場で職務を遂行することが求められます。
遺言執行の基本的な流れ
遺言執行は、遺言者の死亡から始まり、所有権の移転が完了するまで複数の段階を経て進められます。その基本的な流れは以下のとおりです。
- 相続開始
- 遺言書を探す
- 家庭裁判所で遺言書の検認手続きを行う
※公正証書遺言、法務局で保管されていた自筆証書遺言では不要。 - 遺言執行者が就任について承諾をする
- 就任したことを相続人に知らせる
- 相続財産を調査し、財産目録を作成する
- 各種財産を記載内容に従って引き渡し、登録制度などに従うものは名義変更の手続を行う(不動産の所有権移転登記など)
- 相続人への報告
各手続きにかかる期間は、遺言の内容や相続財産の複雑さによって異なりますが、一般的には全体を通して半年程度はかかることが多いです。
また、法務局での手続きや金融機関での手続き、その他遺言者と取引のあった機関・会社から証明書を発行してもらう手続きなどに手数料が発生します。
支払いの作業は遺言執行者が対応しますが、その費用は相続財産から支出することになります。遺言執行者に対する報酬を定めた場合も同様です。
遺言執行者はどのように決めるのか
遺言執行者の決定方法には3つのやり方があります。
- 遺言書を使った指定
- 遺言執行者の指定を第三者に委託する
- 家庭裁判所に対し選任の請求をする
遺言者が事前にできるのは①と②です。信頼できる方がいるのならその方を直接指定してもかまいませんし、相続開始後の状況に応じて適切な人物を指定してもらえるよう指定の権限を第三者に委託してもかまいません。
ただし、指定をしたからといってその仕事を強制することはできません。指定を受けた方がその立場となることを承諾しない可能性もありますので、任せたい人物がいるときは前もってその旨を伝えておくと良いでしょう。
誰を指定するべきか
遺言執行者の指定は自由ですが、「公平・中立的な立場を保てる人」や「遺言者の意図を理解し、尊重できる人」「法律や財務の知識がある人」「相続人との良好な関係を維持できる人」などが相応しいといえるでしょう。
例えば相続人の一部を遺言執行者とする場合、家庭の事情をよく理解していますし他の親族との連絡もスムーズにいく可能性が高いです。
しかしながら、利害関係者でもあるため中立性に欠ける可能性があり、他の相続人から不満や不安の声が出てくるおそれもあります。
そのため、第三者の立場にある適任者も探してみましょう。特に相続財産が多く不動産など取り扱いに注意が必要なものが含まれるケース、相続人の数が多く複雑なケースなどでは専門家を活用することも効果的です。遺言執行者の依頼には報酬が発生しますが、その分より安全で確実な遺言執行が期待できます。
スムーズな遺言執行のために記載しておきたいこと
遺言書を作成するときは「遺言執行を円滑に進めるためには何を記載するべきだろうか」ということを意識し、重要な情報を明記するようにしてください。
例えば以下の情報についての記載です。
- 財産の特定に必要な情報
- 不動産なら「所在地」「地番」「登記簿情報」など
- 預貯金なら「金融機関名」「支店名」「口座番号」など
- 株式なら「銘柄名」「証券会社名」「口座番号」など
- 相続人の情報
- 各相続人の氏名、住所、電話番号など
※遺言執行者が連絡を円滑に行えるよう、最新の連絡先を記載する
- 各相続人の氏名、住所、電話番号など
- 遺言執行者への指示
- 具体的な実行方法
- 特定の相続人に対する配慮事項や特記事項
- 遺言執行者が直面する可能性のある問題への対応策 など
また、全体を通して「あいまいな表現を使わないこと」にも注意してください。どの財産のことを指しているのか、どうしてほしいのかが不明瞭だと、当事者間でその解釈をめぐって揉める危険性があります。そのため具体的で明確な記載をこころがけましょう。
そして遺言書の有効性にかかわる大前提ですが、「民法の規定に従って遺言書成立の要件を満たすように作成すること」がとても大事です。せっかく遺言書を作成しても、法律上の要件を満たしていなければ遺言書としては無効であり、記載内容に強制力を持たせることができません。あくまで遺言者のお願いを記した文書としてしか機能しませんので、司法書士など相続のルールに詳しい専門家も活用しながら作成作業を進めることをおすすめします。
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平成10年 早稲田大学 法学部卒業
平成12年 司法書士試験合格、三鷹市の司法書士事務所に勤務
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平成22年 いつき司法書士事務所開業
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